らえば、昨冬とつぜん尋ねまいり、どこぞへ嫁入り口世話いたしくれと申しそうらえば、増弥五こと、家内を失い、不自由いたしおると聞き及びそうろうをさいわい、のち添えにかたづかせそうろうものにござそうろう。縁と申すはただそれだけのことにて、生国も存ぜず、身もとも知れ申さずそうろう。
そうそう、いま一つ思い出しそうろう――」
[#ここで字下げ終わり]
 筆をおいた松長がにたりとさらに笑うと、ふたたびさらさらと書きしたためました。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
「マキこと増弥五へかたづきそうろう節、身付き金七百両ほどをひそかにたくわえおりそうろうとのことにござそうろう。
[#ここから1字下げ]
人のうわさによれば右七百両、あまりよろしからざる金子とかにて、女衒《ぜげん》のかたわら、おりおりいとけなき子ども等かどわかしそうろうてためあげたる不義の金子とか申す由にそうろう」
[#ここで字下げ終わり]
「なにッ」
 名人の眼がぴかりと光った。
 女衒《ぜげん》!
 かどわかし!
 女衒は人を買って人を売る公然の稼業《かぎょう》です。かどわかしは法網をくぐりながら、人を盗み、人をさらって売
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