ねえ人も同然なんです。御用があるなら、筆で話しておくんなせえまし」
「なんでえ。それならそうと早くいやいいじゃねえか。すずりを出しな」
「七ツ道具の一つなんだから、火ばちの陰にちゃんと用意してありますよ」
なるほど、筆に紙、ちゃんとしたくがそろっているのです。
名人の筆はさらさらと走りました。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
「八丁堀右門なり。
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神妙に応答すべし。
神田、米屋増屋弥五右衛門方へ後妻を世話せしはそのほうなる由、いかなる縁にてかたづけしや。
かの女につき何か知れることなきや。
ありていに申し立つるべし」
[#ここで字下げ終わり]
差しつけたのを見て、にやりと笑うと、松長がじつに達筆にさらさらと書きしたためました。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
「よくお越しくだされそうろう。
[#ここから1字下げ]
お尋ねの女はマキと申し、吉原にて女郎五年あい勤めそうろう女にござそうろう。
年あけたるのち、居所を定めず女衒《ぜげん》なぞいたしおりしとか聞き及びそうろうも、つまびらかには存じ申さずそうろう。
てまえ年ごろ世話好きにそう
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