のずと見つかるというもんじゃないかよ。一刻《いっとき》おくれりゃ、一刻よけいあの親子が、むごたらしい敬四郎の責め折檻《せっかん》を受けなきゃならねえんだ。早くしな」
「ちげえねえ! さあこい! 物に筋道が通ってきたとなりゃ、伝六ののみ取りまなこってえのはすごいんだからな。べらぼうめ、ほんとうにおどろくな――ええと、なるほど、これが大福帳だね。向こう柳原、遠州屋玉吉様二升お貸し。糸屋平兵衛様五升お貸し――なんてしみたれな借りようをするんだい。どうせ借りるなら、五千石も借りろよ」
 名人は居間のほうを、伝六は店のほうを、手分けしてあちらこちらと捜しているうちに、その伝六が、とつぜんけたたましく呼びたてました。
「あった! あった! ね、ちょっと、途方もねえものが見つかりましたよ。これから先ゃ、だんなの役なんだ。知恵箱持って、早くおいでなせえよ」
 ひらひらとかざすようにして差し出したのは、一枚の紙切れです。
 見ると、受け取りでした。しかし、ただの受け取りではない。不思議なことにも、駕籠屋《かごや》の受け取りなのです。

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一金壱両二分  ただし夜中増し金
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