かくしているとも考えられるのでした。
 あるいは、父親が使嗾《しそう》して、子どもたちにまま母を殺させたとも考えられるのです。
「それにしては、わざわざ知らせにあの子どもが来たのがおかしいな。ふたりとも、なかなかかわいいからな」
「え? なんとかいいましたかい。あっしがかわいいっておっしゃるんですかい」
「うるせえや。黙ってろ」
「ちぇッ、黙りますよ。黙りますとも! ええ、ええ、どうせあっしゃかわいい子分じゃねえんでしょうからね。もうひとことだって口をきくもんじゃねえんだから、覚悟しておきなさいよ」
 聞き流しながら、ひょいと見ると、はしなくもそのとき、名人の目を強く射たものがある。
 ふろおけのすえてある反対側の羽目板の高いところに、すすでよごれた手の跡が、あちらとこちらに飛び離れて、はっきりと二つ残っているのです。
 しかも、二つとも明らかに、子どもの手の跡なのでした。子細に見比べてみると、その手の跡に大小がある。
 ふたりの子どもの別々の手の跡に相違ないのです。
「はてのう……」
 烱々《けいけい》と目を光らして、手の跡から手の跡を追いながら、その位置をよく見しらべると、湯気抜き
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