か」
「決まっておるわい。殺された女房は後妻じゃ。そのきょうだいはまま子じゃ。店をようみい。米屋というは名ばかり、米俵もろくにない貧乏店じゃ。そのうえに、女房は七百両という身金つきで後妻に来たものじゃ。おやじめ、女房がいのちよりたいせつにしてしまっておったその七百両の小判がほしゅうて殺したものに相違ないわい」
「なるほど、後妻でまま子でござったか。道理でのう。それならば、娘のような乳首をしているはずじゃ。しかし、それだけではちと証拠固めが不足のように思われまするな」
「何が不足じゃ。まだいくらでも不審なことがあるわい。このおやじ、ゆうべからけさまで、どこへうせたか店をるすにしておるわ。いかほどきいても行く先白状せぬが不審じゃ。いいや、そればかりではないわい。これをみろ、これを! 女房がたいせつにいたしておった小判の包みじゃ。おやじめ、この七百両を背中にいたして、ゆうべのそのそとどこかへ出かけておるわ。いかほど締めてもいわぬが、うしろ暗い証拠じゃわい」
「ほほう。なるほど、小判の包みを背中にいたして家をるすにしましたとのう。――おやじ、それはほんとうか!」
「ほんとうでござります……」

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