んめいに取りのけました。
「かしこいことでありますのう。では、見せてもらいましょう」
歩みよって、静かにのぞいてみると、なるほど、女の死体がまだ湯気のたちのぼっているおけの中に、ぐったりと沈んでいるのです。
そのぶきみさ! 気味のわるさ! 血は一滴もない。死因のわからぬあぶらぎった中太りの女の死体が、ぶよんとしたなま白い色をたたえて、湯の中に沈んでいるのです。
年は三十ぐらい。
乳がある。
しかし、乳首は黒くない。処女のようにひきしまっているのです。子どもを産んだことのない証拠でした。
首におしろいが見える。
洗ったはずなのに落ちきっていないところをみると、厚化粧していたに相違ない。おめかしずきの女だった証拠なのです。
ぎろり、ぎろりと目を光らして、首から胸、腰、と隠されている秘密をあばき出そうとするように見しらべていたが、何か動かしがたい断案の確証を発見したとみえて、ほのかな笑《え》みを浮かべながらふり向くと、不意に敬四郎へ静かな問いを放ちました。
「お尋ねつかまつる。早手まわしにもう父親をおなわにされておいでじゃが、この者が下手人とのたしかな証拠あってのことでござる
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