かくしているとも考えられるのでした。
あるいは、父親が使嗾《しそう》して、子どもたちにまま母を殺させたとも考えられるのです。
「それにしては、わざわざ知らせにあの子どもが来たのがおかしいな。ふたりとも、なかなかかわいいからな」
「え? なんとかいいましたかい。あっしがかわいいっておっしゃるんですかい」
「うるせえや。黙ってろ」
「ちぇッ、黙りますよ。黙りますとも! ええ、ええ、どうせあっしゃかわいい子分じゃねえんでしょうからね。もうひとことだって口をきくもんじゃねえんだから、覚悟しておきなさいよ」
聞き流しながら、ひょいと見ると、はしなくもそのとき、名人の目を強く射たものがある。
ふろおけのすえてある反対側の羽目板の高いところに、すすでよごれた手の跡が、あちらとこちらに飛び離れて、はっきりと二つ残っているのです。
しかも、二つとも明らかに、子どもの手の跡なのでした。子細に見比べてみると、その手の跡に大小がある。
ふたりの子どもの別々の手の跡に相違ないのです。
「はてのう……」
烱々《けいけい》と目を光らして、手の跡から手の跡を追いながら、その位置をよく見しらべると、湯気抜きの押し窓のちょうど真下になっているのでした。
窓の長さは三尺、幅は一尺あるかないかの狭いものでしたが、子どもなら出はいりができないことはないのです。
念のために、伸び上がって押しあけながらよく見ると、すすほこりが着物かなぞですれたらしく、さっとはけめがついているのでした。
疑いもなく、ここからふたりの子どもが忍び込んだに相違ない。忍び込んだとするなら、うちのあのきょうだいたちがわざわざ外から忍び込むはずはないから、よそのほかの子どもにちがいないのです。手の跡から判断すると、窓からはいって、羽目板に手を突いて、ひらりと身軽に飛びおりたものにちがいない。
身軽な子ども……!
身軽な少年……?
「ウフフ、そろそろ風向きが変わったかな」
「え? え? なんですかい。いろけがよくなったんですかい」
「うるさいよ。おまえ今、もうひとことも口をきかないといったじゃないか、おまえさんなぞにしゃべってもらわなくとも、こっちゃけっこう身が持てるんだから、黙っててくんな」
「ああいうことをいうんだからな。薄情っちゃありゃしねえや。いっさいしゃべらねえ、口をききませぬといっておいてしゃべって、あっし
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