きてはおれぬと申しますゆえ、だんなさまなら必ずともに他人へ知れぬよう、ご内密にご詮議《せんぎ》くださることと存じまして、失礼ながらあのようなお願いの書面をさしあげたのでござります」
「伝六は喜ぶだろうが、身どもにはありがた迷惑だったかもしれぬのう」
「へ? なんですかい。あっしが何をどうしたというんですかい」
「黙ってろ。まだはめをはずすには早いんだ。おまえには目の毒、おれには虫の毒、こういう色っぽい詮議をすると、二、三日おまんまがまずいから二の足を踏んだが、すがられてみりゃいやともいえまい。実物を見せてもらおう。花嫁御はどこだ」
「奥でござります。おい。冬! 冬! だんなさまがお力をお貸しくださるとおっしゃいましたぞ! もう心配はない! はよう来てお見せ申せ!」
「…………」
「何を恥ずかしがっているんだ。右門のだんなさまにお見せ申すんなら、ちっとも恥ずかしいことはない。早くせんか!」
 せきたてられて、おずおずとお冬は奥から出てくると、丸あんどんの向こうへ隠れるようにすわりながら、ひた向きにさしうつむいてはじらいつづけていたが、ついに思いを決したか、パッと首筋までもまっかに染めなが
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