ら、そろりそろりと着物をぬぎかけました。
おどろいたのは伝六です。なにごとかと思われたのに、目の前でとついだばかりの新嫁《にいよめ》がとつぜんはだを見せようというのです。栃《とち》のように目を丸めて、一大事とばかりかたずをのんだその鼻先へ、お冬は火のようにほおを染めながら、恥じに恥じつつ、上半身の玉なすはだをあらわにさらしました。
同時に目を射たのは、その二の腕に見える奇怪ないれずみです。
「ほほう。なるほど、これでござりまするな」
うちうろたえて名人の出馬を求めた子細と秘密は、じつにその怪しきいれずみなのでした。名人がいとわしげに心の進まなかった子細もまたこれがため、よしや求められたことではあろうとも、夫以外に犯してならぬ新妻《にいづま》のはだをまのあたり見ることが心苦しかったからなのです。
しかし、事ここにいたってはもうちゅうちょはない。
じっと見ると、ごく小さいいれずみではあるが、いかにも変わった趣向の、いかにもみごとな彫りでした。雪とも思われる白い膚へさながら張りつけたようなたんざく型の朱をさして、まぶしいほどにも澄み渡ったその朱いろの中から、喜七いのち、という五文字
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