んな五十に近い者ばかりでござります」
「手代どもは?」
「新吉、宗太郎、竹造、源助、与之助《よのすけ》、巳太郎《みたろう》の六人でござります」
喜七はおろか、喜の字のついた名も、七の字のついた名まえすらもないのでした。奉公人のうちに嫌疑《けんぎ》のかかる者がいないとしたら、結婚当夜招かれた者たちにめぼしを移さねばならないのです。ふと、そのとき、名人の目はもっけもない品を見つけました。床の間にうず高く積まれた祝い品のかたわらに、婚儀招客帳と書かれた一冊が見えるのです。当夜出入りの者の名をしらべるには、これに越したものはない。
黙って立ち上がって手にすると同時に、まず目を射たのは、親戚《しんせき》招客ご芳名とある文字でした。これがざっと六十一名、喜右衛門、喜太郎と似た名まえがふたりあったが、喜七というのはどこにも見当たらないのです。
つづいて町内招客ご芳名とあるのが十六名、おてつだい衆とあるのが十一名。
しかし、そのいずれにも喜七なる名まえは皆無でした。
「ないか!」
「狂いましたかい」
どうやら、狂いかけたらしいのです。どうやら、眼《がん》は横へそれかかったらしいのです。伝六の
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