そくこの女のところへ飛んできたんでございます」
がぜん、つるから出たつるは、さらに怪しくぶきみなつるを伸ばしました。彫った女は、いうまでもなくお冬に相違ない。怪しき頼み手もまた、栄五郎のいうがごとく、大西屋の中にいた者にちがいない。しかし、だれが頼んだかは全く即断を許さぬ濃いなぞでした。お嫁入りする当夜なのです。親戚《しんせき》縁者の者もあまた招かれていたことであろうし、町内の者もおおぜいてつだいに来ていたことであろう、いずれにしても人の出入りが多かったはずなのです。
それらのうちのだれかであるか?
それとも、じつはお冬自身がみずから計ってやったことであるか?
「おもしろくなりやがった。ちょうど夏場だ。知恵袋の虫干しをやろうよ。ここまで来りゃぞうさもあるめえ。栄五郎、大西屋は本石町だっけな」
「そうでござります。あそこは薬種屋ばかり。かどが林幸、大西屋さんはそれから二町ほど行った左側でござります」
「乗り込んでいったら、何か眼《がん》がつくだろう。伝六、ついてきな。――栄五郎もあんまりうつつをぬかしちゃいけねえぜ。女の子なんてえものは、脳に凝りがきたとき、薬味に用いるものだ。師匠
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