す」
「まことならばいかにも不思議じゃが、冬どのとやらもそのとおりか」
「あい。いつこのようないたずらをされましたやら、少しも覚えござりませぬ。知っておりましたら、いいえ、いいえ、このようなはしたないものを腕に入れておりましたら、いずれはわかること、わたくしとても、そしらぬ顔でとついでまいられるはずはござりませぬ」
「このまえお湯にはいったはいつでござった」
「きのうの夕がた、里を出るまえでござります」
「そのときは別条ありませなんだか」
「ござりませぬ! ござりませぬ! 夕がたお湯を使って、お化粧をしていただいて、式へ参りまして、それからこちらというものは、ただいまここへ参りまするまで横になるおりもないほど忙しゅうござりましたゆえ、いつこんなにだいじな膚をけがされましたのやら、気味がわるいのでござります……」
「なるほどのう。いや、しかと拝見いたしました。もうけっこう、膚をおさめなされい」
 消えも入りたいようなはじらい方であんどんのかげに隠れながら、着物のそでに手を通そうとしたとき、はしなくも名人の目を捕えたのは、その背に見えるなまなましい灸《きゅう》あとでした。
「不思議なものが
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