にめりこんでおりましたよ」
「なに! さかさまにめり込んでおりましたとのう! どうやらそのぶんでは、まず十中八、九――」
「乱心ざたの入水か!」
「いえ、おそらくさようではありますまい。よしやどろが深かったにしても、頭をさかさまにしてはまっておったというのが不思議。ましてや、二本差す身でござります、入水などと恥多い死に方をするはずござりませぬ。何か容易ならぬ秘密がありましょうゆえ、さしでがましゅうござりまするが、ともかく死体を一見させていただきましょう」
近寄って見しらべていたその目が、死人の口もとへそそがれるや同時です。きらり、名人の目が鋭い光を放ちました。
変なものがある! 口中にいっぱい黒いものが詰まっているのです。どろか? ――小柄《こづか》の切っ先で食いしばっていた歯を、ぐいとこじあけてみると、血だ! どろかと思われるような、どす黒い血のどろどろと固まったのが、口中いっぱいに含まれているのです。
「案の定――」
「毒死か!」
「さようでござります。一服盛ってから、石の重りをつけて沈ましたものに相違ござりますまい。事がそれと決まりますれば――」
詮議《せんぎ》の筋道もおの
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