寄りの土手に近く、ぬっと大きな松が水の上に枝をのばしているちょうどその真下あたりです。
六人協力してくぐりながら、引き揚げた死体を見ると、意外! 男だった。女と思いきや、りっぱな男でした。
それも両刀たばさんだままの若侍なのです。
蔵人《くらんど》はいうまでもないこと、三宅平七はじめお濠方の番士たちは、いずれも目をみはりました。
大小差したままで沈んでいたというのも不審です。
女と思いのほかに若侍だったのも不審です。
しかるにもかかわらず、女の持ちものがふた品浮き流れていたというのは、さらに不審です。
若侍とそのふた品にどんなつながりがあるか? ――普通に考えれば、恋を入れられなかったために、思いをよせている女の持ちものを懐中して、入水《じゅすい》したとも考えて考えられないことはないのでした。
しかし、町人ならいざ知らず、かりにも大小差す者が、たとい恋に破れての乱心ざたにしても、水にはまって命を断つなぞと笑止きわまる死に方をするはずがない。よしんば、腹切るすべも、自刃するすべも知らないための入水にしたところで、大小差したまま投身するというのは、いかにも筋が通らないのです
前へ
次へ
全44ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング