かれて日に三度ずつ、すなわち暮れ六つに一回、深夜に一回、夜あけに一回。騎馬、ぶっさき羽織、陣笠《じんがさ》姿で、四人ひと組みがくつわを並べながら見まわるしきたりでした。
長つゆがようやく上がって、しっとりと深い霧の降りた朝――ちょうど見まわり当番に当たっていたのは三宅《みやけ》平七以下四人の若侍たちでした。禄《ろく》は少ないが、いわゆるお庭番と称された江戸幕府独特の密偵隊《みっていたい》同様、役目がなかなかに重大な役目であるから、いずれも心きいた者ばかり。その四人が定めどおり馬首をそろえて、半蔵門から隠し井の淵までさしかかってくると、
「よッ……!」
三宅が不意に鋭く叫びながら、馬のたづなをぎゅっと引き締めました。
上と下と濠《ほり》が二つあって、まんなかが水門。上ではない、その下のほうの濠に、いぶかしい品がぶかりぶかりと浮いているのです。
「なんじゃ」
「変なものだぞ」
まだあけたばかりで薄暗いためによくはわからないが、赤いものが一つ、白いものが一つ。とにかく、穏やかでない品でした。
「おりろ。おりろ」
ふたりが馬を捨てて、土手を下りながら長つゆのあとの水かさのました水面に
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