右門捕物帖
毒を抱く女
佐々木味津三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)内濠《うちぼり》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)白|綸子《りんず》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
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 その三十一番です。
 江戸城、内濠《うちぼり》の牛《うし》ガ淵《ふち》。――名からしてあんまり気味のいい名まえではない。半蔵門から左へつづいたあの一帯が、今もその名の伝わる牛ガ淵ですが、むかしはあれを隠し井の淵ともいって、むしろそのほうが人にも世間にも親しまれる通り名でした。濠の底にありかのわからぬ秘密の隠れ井戸が六つあって、これが絶えずこんこんと水を吹きあげているために、その名が起こったとは物知りの話――。
 しかし、どちらであるにしても、内濠とある以上は、たとい天下、波風一つ起こらぬ泰平のご時勢であったとて、濠は城の鎧兜《よろいかぶと》、このあたり一帯の警戒警備に怠りのあるはずはない。特にお濠方《ほりかた》という番士の備えがあって、この内濠だけが百二十人、十隊に分
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