られるぞ」
「足軽たちは?」
「いっしょに来るはずじゃ、それから……」
「だれかほかにご城内からお検分にお越しか」
「いいや。どういうおつもりか、お組頭、ちとふにおちぬことをされたわい。密々の早馬、すぐに八丁堀《はっちょうぼり》へ飛ばしてのう、だれか知らぬが火急に呼び招いた様子でござるぞ」
「ほほう。なるほど、さすがはお組頭じゃ。八丁堀なら、おおかた――」
三宅の平七、なかなかに目がきくのです。いわずとしれた、むっつり右門であろう、というように、にったり笑ったところへ、足軽六、七人を従えて色めきたちつつはせつけたのは、お組頭畑野|蔵人《くらんど》でした。
「浮いているのはどの辺じゃ」
「あのまんなかでござります」
「いかさま、女物じゃな。だれぞひとり、はようあのふた品をこれへ、残りはすぐさま水へくぐらっしゃい」
下知もろとも足軽たちが下帯一つになって、ひとりは命ぜられたとおりなぞのふた品を岸へ、あとの五人が水底めがけていっせいに飛び込もうとしたのを、
「いや、場所がある。まてまてッ」
三宅が制して指さしました。
「今のあそこじゃ。ぶくぶくと水底からあわが吹いているあのあたりが怪しゅう思われるゆえ、まずあそこへくぐってみい」
いずれも水練自慢とみえて、たくましやかな五体をおどらしながら、さっといっせいにもぐりました。
しかし、まっさきにもぐって、まっさきにあわの下へいったのが、まっさきにまっさおな顔で浮き上がってくると、不思議なことをいったのです。
「いのちには替えられませぬ。あそこばかりは二度ともう――」
「たわけッ、いのちに替えられぬとは何をいうかッ。いいや、なんのためにお禄米《ろくまい》をいただいているのじゃ。もいちど行けいッ」
しかりつけてくぐらせようとしたとぎ、ふたりめ、三人め、四人め、五人めと次々に浮かび上がると、いずれも同様に色を失いながらいうのでした。
「あそこばかりは二度ともう――」
「うぬらもかッ」
「でも、気味がわるくて近よれませぬ」
「死骸《しがい》か! 死骸が気味わるうてよりつけぬと申すかッ」
「いいえ、何もござりませぬ。死骸はおろか何一つ怪しいものは見えませぬのに、どうしたことか、あそこへ近よりますと身のうちが凍えるように冷たくなりまして、ぐいぐいと気味わるく引き入れられそうになりますゆえ、いかほどしかられましても、てまえどもの
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