怪だ!
 じつに奇怪なうわさだ!
 日に当たると震いだすという男!
 日中もまっくらな納戸べやに閉じこもって、人に姿を見せぬという男!
 しかも、奇妙なその病気にかかるまえまでは、年も若くて、ひとり身で、このあたりまでも評判の美男旗本だったというのです。
「いやだね。青っちろい顔をして、ひょろひょろになりながら、くらやみばかりに生きておる男の顔を思い出すと、ぞーっとすらあ。昔からある日陰男ってえいうのは、きっとそれですよ。何かつきものでもしたにちげえねえですぜ」
 物知り顔にさっそくもう始めた伝六をしりめにかけながら、ずかずかはいっていくと、
「奥を借りるぞ」
 何思ったか、不意に言い捨てて、どんどん奥座敷へ通りながら名人は、そのままごろりと横になりました。
「またそれだ。きょうばかりゃゆうちょうに構えている場合じゃねえんですよ。あば敬と張りあってるんだ。まごまごしてりゃ、今度こそほんとうにてがらをとられちまうじゃねえですかよ」
「…………」
「ね! ちょっと! いらいらするな。ホシゃ七造だ。あの巡礼笠の主の七造めがどこへうせたか、はええところ見当をつけなくちゃならねえんですよ。あごな
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