顔へ、ずばりとさらにすばらしい名|啖呵《たんか》が落ちかかりました。
「目があるんだ、目がな。おいらの目も安物じゃねえが、み仏のおん目は、三世十方お見通しだぜ。手数をかけりゃ、啖呵にもきっすいの江戸油をかけなきゃならねえんだ。早く恐れ入りなよ」
「…………」
「吐かねえな。かがしてやらあ。この五十両の線香のにおいは、どこのにおいかよ」
「…………」
「ちぇッ、まだ吐かねえのか。じりじりして疳《かん》がたかぶってくらあ。じゃ、ぴしぴしとこちらからいってやろうがね。事の起こりゃ、おそらくみんなご坊のあさましいねたみ心にちげえあるめえ。なによりの証拠は、末寺の興照寺と本寺のこの一真寺との景気の違いだ。定額のお許しもねえ興照寺はあのとおりのご繁盛、それにひきかえ、ご本寺はあそこの鐘楼の石がきでもわかるとおり、ちっとご身代が左前のご様子だからな。それゆえに、あの分かれ地蔵を何かよからぬ了見からさらしものにしたとにらんだが、ちがうのかい」
「…………」
「じれってえな。おいらが責めたてると思や腹もたつかしらねえが、啖呵は借りもの、責め手もみ仏のご名代、弘法さまに成り代わって責めているんだ。袈裟《け
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