すぐたどっていったその曲がりかどに、杉《すぎ》の葉束の酒屋のしるしが、無言のなぞを物語り顔につるされてあるのです。
「ウフフ。におってきたな」
 さわやかに微笑して、疑問の死を遂げているまんなかのふたりの死骸に近づくと、静かに名人はまず懐中へ手を入れました。
 同時にさわったのは金包み!
 一方の懐中から切りもち包みが一個。
 あとの懐中からも同じく一個。
 双方合わせると五十両のおろそかでない大金が、がぜん出てきたのです。――しかも、その包み紙には、ぷーんと強い線香のにおいがある。
「ほんとうににおってきやがった。酒だるを見せてもらおうかね」
 さかさにかしげて、何をするかと思われたのに、ぽつりと一滴受けたところは不思議にも親指のつめの上でした。――じりっとたまったかと見るまに、ぱっとそのしずくが散りひろがりました。
 せつなです。
「毒だ。まさしく、毒薬を仕込んだ酒だよ」
「はてね、気味が悪いようだが、そんなことで毒酒の見分けがつくんですかい」
「ついたからこそ、毒が仕込んであるといったじゃねえかよ。どうまちがっておまえもお将軍さまのお毒味役に出世しねえともかぎらねえんだからね、よ
前へ 次へ
全48ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング