…!」
「…………」
「不思議じゃねえですかい。いいえ、くやしかねえですかい。よりによって、一真寺の近くにこんな変な人切り沙汰《さた》が起きているんだ。しかも、まんなかのふたりはだれが殺したか、どうして死んだかもわからねえ死に方をしているんだからね。おまけに、両側のふたりもおたげえ頭を向き合わせて死んでいるのが気に入らねえんですよ。きさまはこっちへ向いて死ね、おれもそっちへ向いて死のうと、相談してばっさりやられたわけでもあるめえからね。三町も離れているくせに、仲よく向き合って切られているのがおもしろくねえんですよ。え! ちょいと!」
「…………」
「じれってえね。何がうれしいんですかよ。黙ってにやにやとあごをなでていらっしゃるが、だんなにゃこの死に方がお気に召しているんですかい」
 いろいろともうやかましく始めたのを相手にもせず、黙々とたたずみながら、死骸から死骸へ、道から道へ、倒れているその位置とその道筋をしきりと見ながめ、見返していましたが、そのときはからずも目についたのは、一真寺の反対側の本港町の曲がりかどにある一軒の酒屋でした。寺の裏門からずっと出て、死骸を越えて、一本道をまっ
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