んなの眼も狂い、あっしが少し男を下げたというわけなんだ。早い話がね」
「おいらの眼が狂ったんじゃねえや。詮議の道が一本、行き止まりになっただけよ。ウフフ。知恵の引き出しをあけ替えなくちゃなるめえッ。二の手をたぐるんだ。さらし地蔵の背中に彫ってあった六人の女を洗ってきなよ。おまえは字が読めるといばったはずだ。覚えているだろう。大急ぎで回ってきな!」
「えっへへ。おいでだね。いずれこんなことにもなろうと思って、ふところ日記にちゃんと所書きも名まえも書き止めておいたんだ。回るはいいが、回って洗って何をするんですかい」
「知れたこっちゃねえか。六人の女の身性がわかりゃ、遺恨の筋にも見当がつくんだ。通し駕籠《かご》を気張ってやらあ。あわてねえで、急いで、ゆっくりいってきなよ」
「お手のものだ。だんなは?」
「寝ているよ」
騒ぐ色も見せないのです。第一の道が行き詰まりになったら第二の道へ、――第二の抜け道がまたぷつりと絶えたら第三の裏道へ、それまではまず英気を養ってというように八丁堀へ帰って寝て待っていたが、どうしたことかその伝六の帰りが長引きました。たそがれが来て、宵《よい》が来て、夜になって
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