え、弟と姉でござりますとね」
「同じじゃねえか。女は水稼業《みずかぎょう》の者だといわなかったかい」
「いったんですよ」
「それから」
「じわりじわりといじくって気に入らねえね。母上があるというんだ、ふたりを産んだおふくろがね」
「決まってらあ。さっきも、ふたりがそれをはっきりいったじゃねえか。よろしく申しましょう、おまえもたいせつにな、とな。だから、きょうだいだなとすぐににらみをつけたんだ。水稼業は何をしているといったんだよ。おそらく、大っぴらに会われねえ商売だと思うが、違うかい」
「そ、そ、そうなんですよ。深川のついこの川上で、湯女《ゆな》をしているんだというんだ。だから、血を分けたきょうだいだが、弟の出世の妨げになっちゃと、世間のてまえもあるんでね、なるべく人に隠れて行き来しているうちに――」
「船で加持祈祷を受けにやって来るにも、まくらがなくちゃ来られねえほど、その姉君が重い病気になったといったろう」
「そうなんです、そうなんです。真言秘密の祈祷を受けに、弟上人のからだの暇を見てはこっそり通ったのが、とんでもないうわさの種になったんでござりましょうというんですよ。したがって、だ
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