、なやましく四月の夜がふけかかってきたとき、ようやくがたがたと足音までがやかましく帰ってくると、じつに意外でした。思いもよらなかったことを、やにわにまくらもとから浴びせかけたのです。
「バカにしてらあ。六人はね、そろいもそろって大年増《おおとしま》ですよ」
「へえ。年増とね。眼《がん》がちっと狂ったかな。年増もいろいろあるが、おおよそいくつぐらいだよ。三十五、六か」
「ところが大違い。五十九歳を若頭《わかがしら》にね、六十一、六十三、六十八、七十、七十三と、しわから顔がのぞいているようなべっぴんばかりですよ」
「ウフフ。あっはは。参ったね。歯の抜けた年増たア、みごとに一本参ったよ。洗ってきたのはそれっきりかい」
「どうつかまつりまして、いかにもくやしかったからね。事のついでにと思って、一真寺のお残り地蔵のほうも、六人ともにかたっぱし施主の身がらを洗ってみたんだがね。やっぱり……」
「しわ入りのべっぴんかい」
「そのとおり。しかも、金はあるんだ。いろけはねえがね、十二人とも福々の隠居ばかりなんですよ」
「…………」
「どうしたんです! 急にふいっと黙っておしまいなすったが、何かお気に入ら
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