興照寺の住持さん、おしろいつけた女仏さまからとんだ極楽の夢を見せてもらっているといったじゃねえか。さらし地蔵のなぞも、そこら辺にしっぽがのぞいているかもしれねえ。だから、その女、張りに行くんだよ」
「ちぇッ。たまらねえことになりやがったね、色和尚《いろおしょう》、恋の遺恨の鼻欠け地蔵とくりゃおしばやものだ。行きますとも! 行きますとも! しっぽの出てくるところまで行きますよ。からめ手詮議はだんなが得意、いろごと詮議はあっしの得意、坊主がなめりゃ四光とくらあ。――えっへへ。こうなりゃもう気もたってくるが、足もまたはええんだからね。じれってえな。もっと急いで歩きなせえよ」
じつにどうも言いようなく口達者な男です。急がせながら河岸《かし》に沿って曲がりばなをひょいと見ると、乗せてきての帰りか、だれかを待っているのか、いいぐあいにも目についたのは一艘《いっそう》の伝馬《てんま》でした。――もとより見のがすような伝六ではない。
「ちきしょう。おあつらえ向きにできてやがるね。船頭、乗ってやるぜ。遠慮はいらねえ。早く出しなよ」
「冗、冗、冗談じゃねえですよ。一真寺のお説教を聞きに来た日本橋のご隠居
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