お灸《きゅう》をおすえくださりませ」
「なるほどのう。あちらのお住職とは兄弟|弟子《でし》でござりまするか。それならば、ご心痛なさるのもごもっとも至極、よもや、今のそのお話、うそではござりますまいな」
「もってのほかのこと、不妄語戒《ふもうごかい》、犯すほどのばち当たりでござりましたら、蓮信、この紫数珠を身につけてはおられませぬ。お疑いならば、あちらへ行ってお調べなさるが早道、今も申したとおり、身に暇ができたとならば、きっと女をこっそり引き入れるか、ないしょに女の隠れ家へ忍んでいくか、よからぬ交わりしているはずでござりますゆえ、じきじきにご詮議なさるとよろしゅうござりまするよ。――いや、いううちに、てまえのからだも少し忙しくなったようでござります。ごめんくださりませ。鳶の衆もな、かきねができたらもうご用済みでござりますゆえ、ゆっくりお説教でもお聞きなさいよ」
 数珠つまぐって、静かに会釈しながら立ち去っていったのを見送るともなく見送ったその目に、はしなくも映ったのは、そこの本堂の前の階段口に、麗々と建てられてある次のごとき一札でした。
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「紀
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