りを染め抜いてありゃしねえか」
「あるんですよ! あるんですよ! そのうえできが少し――」
「風がわりで、ふっさりと幅広の袋ひもになってるだろう!」
「そうなんです! そうなんです! しごきといや、天智《てんち》天皇の昔から、ひと重のもので、ギュッと伊達《だて》にしごいて用いるからこそ、そういう名まえがついているくれえのものなのに、ふた重で袋仕立てになっているたアあんまり聞かねえからね、こいつ、何かいわくがあるだろうと、じつあ首をひねっていたんですが、かなわねえね。だんなはまたどうしていながらにそうずばずばと何もかもわかるんですかい」
「そんなことぐれえにらみがつかねえでどうするかい。目のさめるような江戸紫ときいたんで、ぴんときたんだ。まさしくそりゃ、いま江戸で大評判のお蘭《らん》しごきだよ」
「はあてね。なんですかい! なんですかい! 聞いたようでもあり、聞いたようでもねえが、今のそのお蘭しごきというななんですかい。くさやの干物に新口ができたとかいう評判ですが、そのことですかい」
「しようのねえ風流人だな。だから、おめえなんぞ歌をよんでも、花が咲くゆえがまんできけりになっちまうんだ。
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