られた品はねえんだね」
「ねえから、なおのこと気がもめるんだ。きんちゃくだってかんざしだっても、とる気になりゃいくらでもとれるくせに、そういう品にゃいっこう目もくれねえで、おかしなところをつるりとやりゃがっちゃしごきばかりをねらうんでね、こいつかんべんならねえと、あっしもいっしょうけんめいに文句を考えて、このとおりとらの巻きにいと怪しとけえたんですよ。自慢じゃねえが、えへへ、なかなかこういうおつな文句は書けねえもんでね。ええ、そうですよ。学問がなきゃなかなか書けるもんじゃねえんですよ」
「能書きいわなくともわかっているよ。そのしごきは、どんなしごきだ」
「それが穏やかじゃねえんです。だんながお出ましにならなきゃ、おらが片手間仕事にちょっくらてがらにしようと、じつあきょう昼のうちに八人みんな回って、小当たりに当たってみたんですが、八本ともとられたしごきてえいうのが、そろいもそろって、目のさめるような江戸紫のね――」
「なにッ」
がぜん、きらりとばかり目を光らすと、むっくり起き上がっていったものです。
「どうやら、聞きずてならねえ色だ。もしや、その江戸紫にゃ、どれにも鹿《か》の子《こ》絞
前へ
次へ
全50ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング