、それほどでもねえのだが、あっしだって木石じゃねえんだからね。人にしてみやび心のなかりせば、犬ねこ馬と同じなりけり、という歌もあるんで、ちょっとそのゆうべ、一首ものしてみたんですよ。へへへ、うれしいね」
「あきれたもんだよ」
「へ……?」
「ほんとうにほめられたと思ってらあ。みやび心だかなんだか知らねえが、おまえのとらの巻きゃ肝心かなめのことを書き落としておるな」
「な、な、何がなんです! 上げたり下げたり、しゃくにさわるね! 肝心かなめのことを書き落としているたア何がなんですかよ!」
「いま読みあげたしごきどろぼうのことよ。そりゃほんとうにあったことかい」
「ちぇッ、だから腹がたつというんですよ! こないだから口がすっぱくなるほどいったじゃござんせんか! これこれかくかくで、わけえ女の腰ひもばかりを抜きとる色きちげえみてえなやつが、あっちへ出たりこっちへ出たりしていやがるから、陽気が陽気だ、ねらうところも腰ばっかりで穏やかじゃねえ、ほかならぬわけえ女ばかりが災難に会ってるんだから、ちょっくらお出ましになって、娘っ子たちを安心させておやりなせえよと、顔を見るたびにいったじゃござんせんか
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