ひざもとにお慈悲をいただいておって、何をふらち申すかッ。そちこれなる紺屋《こうや》たれさまのご允許《いんきょ》受けて営みおるかッ、加賀宰相のお許し受けたと申すかッ。不遜《ふそん》なこと申すと、江戸まえの吟味が飛んでまいるぞッ」
「なるほど、いや、恐れ入りました。じつは、そちらのやかましいだんなが、――いや、これは失礼。そちらの威勢のいいだんなが、やにわとおかしなことをおっしゃってどなりつけましたゆえ、つい腹がたったのでございます。なんともぶちょうほうなことを申して、恐れ入りました。ご詮議《せんぎ》の筋は?」
「お蘭しごきだ。売れ行きはどんなか」
「飛ぶように、――と申しあげたいが、なんしろ物が駄物《だもの》と違いまして少々お値段の張る品でござりますゆえ、月々さばけるはほんのわずか、それに染めあげるてまえのほうから申しましても、染め粉はもとより、ちりめんからして吟味いたしまして、織り傷一本、染めみだれひと筋ございましてもはねのけますゆえ、染めあがる品もわずかでござりまするが、売れ行きも月ならしせいぜい三、四十本というところでござります」
「このごろはどうだ」
「さよう? この月の十一日で
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