と折り紙つけたむっつり流、狂い知らずのその眼に狂いがあったのです。もののみごとにはずれたのです。
かつてないほどにうち沈んだ姿でした。思案にあまり、思いに屈したというように、深くふかく考え沈みながら、踏む足も重たげにとぼとぼと取ってかえすと、ものをもいわずにすうとあの仕事場に上がって、かかえ持っていたなぞの青焼き人形を、静かにその前に置きすえながら、どっかと端座して黙々と腕こまねきました。
へやにいたのはあの泥斎《でいさい》です。意外に思ったか、あっけにとられたものか、それともなにか泥斎自身も思いに沈んでいたのか、無言のままに見迎えて、声もかけずにじいっと押し黙ったままでした。
しかし、その目は、ときおり、芸道にいそしむ者のみが持つ、燃えるような、きらめくような、異様な光とともに、吸い寄せられでもするかのごとく、青焼き人形にふりそそがれました。
名人右門の目もまた同様です。
おくれてはいってきた伝六も――、いっぱしの立て役者がましく、気味わるそうに青焼き人形をながめては首をひねり、ひねっては名人の顔をうちながめ、ながめてはまたしきりに首をひねって、あのやかましいのが事の意外な
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