ぞ! 目もあるぞ! しかも、このおいらの目玉は、雨空、雪もよう、晴れ曇り、慈悲にもきくがにらみも江戸一ききがいいんだ。なんぞおめえ細工をしたろう。すっぱりいいな」
「いいえ、あの、あっしが、あっしが――」
「あっしがどうしたというのかい」
「あっしが蒸し焼きにしたんじゃねえんです。殺したんじゃねえんです」
「それをきいてるんじゃねえんだ。さっき仕事べやへへえっていったときに震えていたあんばい、今こうして逃げまわったあんばいからいっても、無傷じゃあるめえ。弥七郎が思い案じて自害しなくちゃならねえような種を、何かおめえがまいたろう! どうだ。ちがうか!」
「め、めっそうもござりませぬ。無、無実でござります! 無実のお疑いでござります。あっしゃ何もしたんじゃねえんです。ただ、二十日《はつか》の晩、弥七郎がいなくなったあの二十日の晩に――」
「二十日の晩にどうしたんだ」
「見たんです。ちらりと、ちらりとあれがあの窯《かま》の中にはいるところを見かけたような気がしましたんです。何をするだろうと思ったんですが、はっきり見たわけじゃなし、まさかと思っておったら――」
「思っておったら、どうしたんだ」
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