「ところが、おいらが見るとちゃんとけえてあるから妙じゃねえかよ。走ったかと思やとまり、止まったかと思やまた逃げだして、その逃げ方もあっちへいったり、こっちへ来たり、まごまごと迷ってばかりいるのは、気の小せえ証拠、度胸のすわっていねえ証拠だよ。――どうやら、裏庭は木戸も抜け道もねえ止まりのようだ。どこかにもぐっているにちげえあるめえ。さっさと拾っていってかいでみな」
一つ一つたぐりながら探っていくと、果然、裏庭のいちばんすみの、小屋ともつかぬ穴倉の前で消えているのです。――おそらく、人形用の細工土をかこってある土室にちがいない。足跡はその入り口のところでぴたりと止まって、入り口にはまた厚そうな土の戸が見えました。
「ウッフフ。よくよく、ちゃちな野郎だね。けっこうこれで隠れおおせたつもりでいるんだからね。――やい、野郎ッ、知らねえのかッ。知らねえのかッ、頭かくしてしり隠さずってえしゃれた文句が、いろはがるたにちゃんとあるんだ。出ろッ、出ろッ。――しかし、だんな、いいんですかい、小せい声でお頼み申しておきますがね。窮鼠《きゅうそ》かえってねこをかむってえ古ことわざもあるんだ。主従のよしみ
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