っていくうちに、
「はてな、ちきしょう、おつなところで止まっておりますぜ」
てっきり表を町のほうへでも落ち延びたろうと思われたのに、足跡はぐるりと住まいのまわりを半分回って、ぴたり、そこの縁の下のところでとぎれました。――と見えたのが、迷ったにちがいない。もぐって隠れようか隠れまいかとためらったあげく、また逃げだしたとみえて、やはり足跡は表口から往来につづいているのです。
しかし、そう思われたのもつかのま、出てからまたさらに迷ったとみえて、あちらにふた足、こちらに三足、行きつもどりつ、しどろもどろに逃げ惑ってから、くるり引っかえして、足跡はふたたび住まいの庭の裏口目ざしてつづきました。
「ウフフ。あきれけえった野郎だね。めくらが火事に飛び出したんじゃあるめえし、こりゃまたどうしたんですかよ。どこへ逃げやがっても雪ゃあるんだから笑わしゃがらアね」
だが、名人右門の推断はまた別でした。
「やつめ、察するにおくびょう者だな」
「え? そんなことが、またどうしてわかるんですかい。足跡に肝ったまの大小がけえてあるんじゃあるめえし、だれの足跡でも雪に残りゃこういうかっこうをしているんですよ」
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