の深い雪の上に、逃げ延びた先を物語るかのように点々と残されてあった粂五郎の足跡です。
「ちげえねえ。なるほど江戸じゅう雪が積もってるからには、どこまで逃げやがったってぞうさはねえや。おれの血のめぐりもちっとばかり鷹揚《おうよう》かもしれねえが、これに気がつかねえたア粂五郎もちゃちな野郎だね。さあ来い、奴《やっこ》! もう逃がさねえぞ」
 まことに、いつもながら名人右門のすることなすことには、そつがない。雪に足跡の残ることを心づいていたればこそ、騒がずに悠揚《ゆうよう》と構えて、追いかけようともしなかったのです。――十手を斜《しゃ》に握りとったあいきょう者を先頭にして、なぞのかぎを追う主従ふたりは、その場から点々と残されている粂五郎の足跡を拾いはじめました。

     4

「ウッフフ。ありますぜ。ありますぜ。バカだな。こんなでけえ足跡がおっこちているのも知らねえで、いい気になりながら逃げやがったんだからね。それにしても、なんてでけえ足だろうね。十一文甲高、仁王《におう》足というやつだ。ね! ほらほら。向こうへ曲がっておりますよ」
 伝六の悦に入ったこと、さながらに子どものようです。拾
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