ら、いま一度三つの窯を見比べました。
 やはり、色がちがうのです。
 目のせいでもない。気のせいでもない。かすかに、ほんのりとにじみ出た色ではあるが、まさしく油光りがしているのです。
 いや、そればかりではない。より不審なことは、火口のそのふさぎ方に相違のあることでした。泥斎親子の窯の火口は、当然のごとく表からどろ目張りをもってふさいであるのに、弥七郎の窯の火口は内からふさいであるのです。
 せつな!――いぶかしみながらあとにつき従ってきた泥斎のところへ、さえざえとした声が飛びました。
「こぶ泥! びっくりするじゃねえぜ! おいらがどこのだれだか知ってるだろうな」
「はッ、存じておりまする。右門のだんなさまと気がついたればこそ、何をお見破りかと不審に思いまして、おあとについてまいったのでござります」
「ならば、改まって名のるにも及ぶめえ。右門流の眼《がん》のさえというな、ざっとこんなもんだ。よくみろい!」
 声もろともに小わきざし抜き払って切り裂いた疑問の火口が、ぽっかりと口をあけたとたん!
「あッ!」
 期せずして、伝六と泥斎の口から驚愕《きょうがく》の声が放たれました。紛れもない人
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