右端がてまえ、左がせがれ、まんなかが――」
「弥七郎の窯か」
「そうでござります」
「三窯ともに火口がふさいであるのう」
「この露月町はご承知のとおり増上寺へのお成り筋、煙止めせいとのお達しでござりましたゆえ、そそうがあってはならぬと、二十日《はつか》の夕刻に焼き止めまして、火口ふさいだままになっているのでござります」
「なに、二十日! 二十日の夕刻に火止めしたとのう!」
 つぶやきながら、じいっと三つの窯を見比べていたその目が、がぜん[#「がぜん」は底本では「がせん」]、きらりと鋭く光りました。色が違うのです。形も様式も三つながら同じであるのに、泥斎親子の窯といった左右の二つに比べると、まんなかの弥七郎の窯のすそがかすかながらも違った色をしているのです。――黒光り! というよりも油光りでした。しかも、なまなましい、ほんのりとした色ではあるが、まさしくなまなましい油光りなのです。
「伝六ッ。はきものをそろえろ」
 ちゅうちょのあろうはずはない。間遠にちらりほらりと、いまだに降りつづけている淡雪を浴びながら、庭先伝いに歩みよると、うち騒ぐ色も見せずに、烱々《けいけい》とまなこを光らしなが
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