目には老いても泥斎、自慢するのではござりませぬが、まだまだ弟子に劣るようなものはこしらえませぬ。弥七郎ごとき及びもつかぬはずでござります」
「ほほう。しろうと目だというのかい。そうかもしれぬ。名作名品、芸道のこととなると常人の目の届かぬところがあろうからな。しかし、それにしても――」
「なんでござります?」
「土も同じ、薬も同じ、おそらく窯《かま》も同じ一つ窯であろうが、にかかわらず、焼き色、仕上がりに、できふできのあるは不思議だな」
「どういたしまして、土こそ、薬こそ同じでござりまするが、窯ばかりは一つでござりませぬ」
「それはまたどうしたわけかい」
「そこが流儀のわかれどころ、苦心の入れどころ、火くせ、焼きくせ、窯くせというものがござりまして、えもいわれぬ働きをいたすものでござりますゆえ、てまえの窯、せがれの窯、弥七郎の窯と、窯ばかりは三人別々でござります」
「なるほど、そういうものかい。その窯はどこにある」
「あの庭先の小屋の中に見えるのがそれでござります」
 縁側からさしのぞいてみると、いかさま雪に閉ざされた庭の向こうの小屋の中に、三つの窯が見えるのです。
「どれがどうだ」

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