こぶ」は底本では「ごぶ」]泥《でい》、いや、泥斎」
「はッ」
「いい焼き色だな。この三体はだれの作かい」
「てまえとせがれと弥七郎とで、それぞれ一体ずつ、この正月の初焼きにこしらえたものでござります」
「いちばん左はだれの作かい」
「せがれでござります」
「まんなかは?」
「てまえの作でござります」
「ほほう、そうかい。とすると、右端が弥七郎の作だな」
「さようでござります」
「おかしなこともあればあるものだ。ちょっと拝見するかな」
仕事に精進していないといったはずの弥七郎の作が、師泥斎をもしのぐできばえに不審をうって、いぶかりながら手にとりあげて台じりを返して見ると、なるほど彫りがある。泥斎門人弥七郎作、という焼き彫りの銘が、無言のなぞを秘めながら刻まれてあるのです。――名人の声がそろそろとさえだしました。
「妙だな。泥斎! ちっとおかしかねえかい」
「何がでござります」
「せがれ粂五郎のふできはとにかくとして、のらくら者の弥七郎が、師匠のおまえさんより上物をこしらえるとは変じゃないかよ」
「なるほど、しろうと目にはさように見えるかも存じませぬが、どうしてなかなか、われわれくろうと
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