いったきりいまだに帰らねえところをみると、また女のところにでもはまっているんじゃねえかと思っているんでごぜえます」
「ちっと変だね」
「何がでございます?」
「でも、おやじの源五兵衛の訴え状にゃ、たいそうもなくできのいいりちぎ者だと、きわめ書きをつけてあるぞ」
「とおっしゃいますと、なんでございますか。源五兵衛どんがなんぞお番所へでも訴えてまいったんでございますか」
「訴えたどころじゃねえ、腹を切って伊豆守様に直訴をしたぜ」
「えッ――。まさか! まさかに、そんなことも――」
「これをみろい。直訴状だ、みごとな最期だったよ。肝が冷えたかい」
「なるほど! そうでござりましたか――。思いきったことをやりましたな。いいや、無理もござりますまい。のらくら者でしたが、老い先かけて楽しみにしておったひとり子でござりますもの。それが消えてなくなったとなると、親の身にしてみれば心配のあまり、命を捨てて直訴もする気になりましたろうよ。それにしても、親の心子知らず、どこへ姿をかくしたのやら、弥七郎めはばち当たりでござります。てまえども親子にうしろめたいことはなに一つござりませぬ。ご不審の晴れるまで、どこ
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