物知らずだな。訴え状に土偶師泥斎と書いてあるんで、どこの何者かいなと頭をひねったんだが、こりゃ博多焼きのこぶ泥だといっているんだよ」
「はてね」
「まだわからねえのかい。お手数のかかるおあにいさんだな。博多人形はその昔宗七というのが焼きだしたんで、ほんとうの名は宗七焼きというんだよ。その博多焼きの泥斎ならば、二十年間博多で修業したといういま江戸で折り紙つきの名工だ。左の耳下に福々しいこぶがあるところから、人呼んでこれをこぶ泥というのよ。おまえよりちっと物知りで、気に入らねえかい」
「どうつかまつりまして。ちくしょうめ、やけにうれしくなりゃがったね。そういうふうにずばりずばりとだんなの眼《がん》がついてくりゃ、もうしめたものなんだ。なんともかんともたまらねえね。え! だんな。――やい、こぶ泥、通っていくぞ」
 じつにどうも、伝六がうれしくなったとなると、いいようのない男です。先にたってどんどんはいっていくと、そこの仕上げべやにうずくまりつつ、しきりと焼き人形の仕上げを急いでいる老人と若いのとふたりに、ぱんぱんとあびせました。
「このとおりお出ましなんだ。景気のいい親方がいっしょになって、
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