かり今ほろりとなっているんだが、いけねえかい」
「あやまった。あやまりました。なるほどね、ちくしょうめ、さあ来い! もうこうなりゃ忙しいんだぞ。事がそうと決まりゃ、露月町の泥斎《でいさい》とやらが本能寺だ。ぱんぱんと早手回しにやってめえりますからね、ちょっくらお待ちなせえよ」
 飛び出していったかと思うと、いかさま早い。
「へえ、お待ちどうさま。お駕籠ですよ」
 そろえて待って、さあいらっしゃいとばかりちょっと気どりながら、伝六なかなかにやるのです。――雪の道を二丁前後させながら、急ぎに急いでやっていったところは、いわずと知れた芝露月町土偶師泥斎の住まいでした。

     3

 通りからちょっとはいっていくと、いかさまひとひねり凝った構えの住まいの前に、それとひと目にわかる看板が見えました。
「宗七焼き人形師、泥斎」
 達筆に書きつづったそういう看板がさがっているのです。見ながめるや同時に、ずばりと小気味のいい右門流がもう始まりました。
「なんでえ。つがもねえ、こりゃ博多《はかた》人形のこぶ泥《でい》じゃねえかよ」
「フェ……? こぶ泥たアなんですかい」
「知らねえのかい、あきれた
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