[#天から2字下げ]家出人お係りさま御中

 というのが一通。

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昨日、取り急ぎ書面をもってお訴え申し上げ候えども、いまだなんのご沙汰《さた》もこれなく、いかがにあいなり候や、てまえせがれはただのせがれには候わず、天にも地にも掛け替えなき一粒種にて、日ごろ心だても優しく、他より恨みを受けたることなぞもとよりこれなきばかりか、賭《か》けごと、女出入りは申すに及ばず、ただの一度も悪所通いいたせしことこれなきほどのりちぎ者に候えば、それゆえにて世間をせばめ、入水《じゅすい》投身なぞ、つまらぬ了見起こせしとも思われず、なにゆえの家出かただただ心労にたえず候。ことに不審は、昨夜またまた奉公先なる露月町|泥斎《でいさい》方へ参り候ていろいろ問い正せしところ、先方の申すには拙者方へ参るというて立ちいで候よし、なれども当方へは参った形跡まったくこれなく、今は生死のほども計りかね候あいだ、さだめしお役向きのことどもご繁忙には候わんも、別してご憐憫《れんびん》をおかけくだされ、火急にご詮議《せんぎ》くだされたく、改めて奉願上候。
 正月二十二日
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[#地か
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