がらがらやりだしたのは当然でした。
「じれってえな。そんなものを調べりゃ何がおもしれえんですかよ。色文《いろぶみ》にしたっても、日がたちゃ油がぬけるんだ。その中にあるやつア、みんなかびのはえた訴え状ばかりですよ。てっとりばやく入舟町へいって洗いたてりゃ、たちまちぱんぱんとらちがあくじゃねえんですか!」
「…………」
「え! だんな! くやしいね。そもそも、あのおやじが気に入らねえんだ。雪の降るさなかに、なにもわざわざあそこまで飛び出してみえをきるがものはねんですよ。直訴をしてえことがありゃ、息の根の止まらぬうちに、ここへ来りゃいいんだ。それがためのお番所なんだからね。よしやだんなが虫の居どころがわるくてお取り上げにならなくとも、あっしという者があるんだ。あっしという気性のいい男がね。この伝六様がいるからにゃ、どんなうるせえねげえごとでも聞いてやりますよ。ね! ちょっと! え! だんな!」
「申しあげます! あの、もし、お願いでござります。お願いの者でござります!」
「うるせえな。いううちに来りゃがった。忙しいんだよ。伝六様は、いま手がふさがっているんだ。用があるならあしたおいでよ」

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