いいますぜ。なにもだんなに、伊豆守様をお気どりなせえというんじゃねえがね。せめてあのとき、ひとことぐれえおっしゃったっても、ばちア当たらねえんだ。おお、伝六か、捜したぞ、おめえが来ねえことにゃ役者がそろわねえんだ、かわいいやつだね、ついてきな、とでもおっしゃってごらんなせえよ。わッときたにちげえねんだ。日本一、親方ア、よう伝あにいとね。エヘヘ、エッヘヘ――」
「バカだな」
「え……?」
「がんがんやっていたかと思や、ひとりで急に笑いだしやがって、おめえくらいあいそのつきるやつは、ふたりとねえよ」
「そうでしょう。ええ、そうでしょうとも。どうせあっしはあいそのつきる人間なんだからね。笑ったり、おこったり、方図のねえ野郎ですよ。それにしたっても気に入らねえんだ。これがいったいどうしたっていうんです。え! ちょっと。この直訴状のどこがどうしたというんですかよ。親心に上下がねえならねえで、しかじかかくかく、せがれがこれこれこうでごぜえますゆえ、依怙《えこ》のご沙汰《さた》はごかんべんくだせえましと、何が何してどう依怙の沙汰だか、どうせ死ぬからにはもっと詳しくけえて直訴すりゃいいんだ。それをなん
前へ 次へ
全54ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング