死なばもろとも、出世もいっしょと、口にこそ出して約束したんじゃねえが、あっしが女だったら、人さまにやかれるほどもうれしい仲なんだ。なればこそ、しめたとばかり――」
「うるさいね」
「いいえ、きょうはいうんだ。なにも、ああまで人前で恥をかかせなくともいいんだからね。きょうは腹の虫がいえるまでいいますよ。うるさかったら、だんなもとっくり考えてみりゃわかるんだ。いまかいまかと待っていたところへ、ぬうとお顔がのぞいたんでね、さてこそおれの出幕だ、話せるね、いい気性だよ、あっしに花を持たせるおつもりなんだと思ったればこそ、喜んで勇んで飛んでもいったのに、ありゃなんです。あのまねゃなんです! ぬうと出して、ぬうとそっぽを向いて、ありゃいったいなんのまねですかよ!」
「…………」
「え! だんな! ね、ちょっと!――くやしいね。なんてまたきょうはやけにそう足がはええんだろうな。そんなにお急ぎだったらおごりゃいいんだ。気まえよく駕籠をおごりゃいいんですよ。ね! ちょっと! だんなってたらだんな!」
「…………」
「しゃくにさわるね、あっしがうるさくいうんで、意地わるに急ぐんだったら、あっしも意地わるく
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