ばし》のあのお番所なのです。
「ああ、くやしい。くやしすぎて目がくらみやがった。どうせね、え、え、そうでしょうとも。どうせあっしなんぞはね――」
ようやく追いついた伝六が、よくよくくやしかったとみえて、陰にからまりながら鳴りだしたのは無理のないことでした。
「どうせそうでしょうよ。え、え、そうでしょうとも、どうせあっしなんぞは血のめぐりもわりいし、いつまでたっても人前で恥をかかされるようにできた人間なんだからね。さぞやだんなはあっしに赤っ恥をかかせていい心持ちでしょうが、それにしても場合というものがあるんだ。場合がね、え? だんな!」
「…………」
「くやしいね。どれだけいやがらせをしたらお気が済むんですかい。ちっとはあっしの身にもなってみるといいんだ。なんしろ、時が時だし、人出もあのとおりの人出なんだからね。とちっちゃならねえ、男をたてずばなるめえと思ったればこそ、だんなが御用というまで、がまんにがまんをして待っていたんですよ。ところへ、お顔が下馬札の陰からぬっとのぞいたんだ。うれしかったね。え、だんな。考えてもみりゃいいというのはここですよ。きのうやきょうの仲じゃねえんだからね。
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