かい」
「たよりのねえやつだな。どうしたんですかいとはまた、なんてぼんやりしているんだよ。駕籠の向きをしちっくどく聞いてみたのは、ひとりだか七人だか知らねえが、七つの捨て駕籠の乗り手がどこから先に捨てはじめて、どこで捨て終わっているか、それを探ってみたんだ。けっきょく方角をたどっていったら、ぐるりと大きくお城を回って、どれも申し合わせたように土橋のほうへ向いているとすると、ふり出しは日本橋、上がりはすなわち土橋ご門と決まったよ。正月そうそう、どうやらおつりきなあなのようだ。したくしなッ」
「ちぇッ。たまらねえことになりやがったね。さあ、忙しいぞ! さあ、忙しいぞ! ちくしょうめ! うれしすぎて目がくらみゃがった。ええと、何から先にしたらいいのかな。駕籠《かご》ですかい! おひろいですかい! 雪駄《せった》ですかい! お羽織ですかい! ね! ちょっと! かなわねえな。やけに黙って、どこへ行くんですかよ。――ね! ちょっと! なんとかおっしゃいましよ!」
だが、もう声はないのです。事ここにいたれば、じつにもうみごとなむっつり右門でした。源氏車の右門好みに例の巻き羽織。蝋色鞘《ろいろざや》
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