しゃいましたゆえ、日ごろ手なれの含み針を使うたが運のつき、――いいえ、あれをあなたさまに山住流三角針と見破られたのが、このような恥ずかしいめに会うもとになったのでござります。ほかに子細はござりませぬ。みな恥ずかしい恋ゆえのこと、ふびんと思うてお慈悲おかけくださらば、しあわせにござります……」
「ほほうね。しかし、気に入らねえのはお城のまわりを騒がせたあの一条だ。ありゃいったいなんのまねです!」
「あいすみませぬ。あれもそれもみな恋慕祈りのおまじないになくてはならぬ約束、なるべく高貴のおかたのお住まいのまわりを持ち運べとのことでござりましたゆえ、恐れ多いこととは知りながら、あのようにお騒がせしたのでござります」
「なるほどね。それにしても、人間一匹殺すにゃあたるめえ。ねこ伝をあんなむごいめに会わすたアなんのことです!」
「おしかり恐れ入りました。あいすみませぬ。あいすみませぬ。それもやはり祈りの約束、人に知られたら念が通らぬとのことでござりましたゆえ、思いこがれたこの片思い、つい遂げたいばかりの一心から、お命いただいたのでござります」
「たわいがなくてあいそがつきらあ、口のすっぱくなるほ
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