にこもって、からまったことをいうね。知らねえというなら知らねえでもさしつかえねえが、おいら、むだ手間取ることがおきらいなたちなんだからね、そういうことなら、すっぱり名のろうじゃねえか。むっつり[#「むっつり」に傍点]の右門ってえいうな、おいらのことだよ」
「…………!」
 ぎょッとなりながら声も出ないほどにおどろいて、いまさらのようにしげしげと見直したのを、すかさずにやんわりと浴びせかけました。
「ウフフ、むっつりの右門ときいて目をぱちくりやったところをみると、おいらのあだ名もいくらか効能があるとみえるね。ききめがあるならあるで、なおさいわいだ。お互いこういうことははええがいいんだからね。隠さずに、なにもかもすっぱりいいな。詮議《せんぎ》に来たんだ。どういう了見から七ところも捨て駕籠をやって、お正月そうそうお公方《くぼう》さまのお住まい近くを騒がせやがったか、その詮議に来たんだからね。この駕籠の中にある七つのおかしな橙もまた、なんのまねだか白状すりゃいいんだ。え! おい! 大将。江戸っ子らしく、あっさりとどろを吐きなよ」
「…………」
「じれってえね。また黙り込んだところをみると、せっ
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